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Some Folks Lives

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派遣法改正をめぐる審議を読んで、民主党がダメな理由をあらためて痛感した

なにやら派遣法の改正があちこちで話題になっています。

<労働者派遣法改正案>専門職26業務も「雇い止め」続出 (毎日新聞) - Yahoo!ニュース

 これまで働く期間に制限がなかった通訳など専門26業務派遣労働者に雇用不安が広がっている。改正案は専門26業務を廃止し、受け入れ期限を一律最長3年にする内容だが、法案成立前の今、3年後の雇い止めを言い渡されたと訴える26業務の派遣労働者が相次いでいる。

確かに従来期限の制限がなかった派遣業務について、一律3年の期限を定めるというのは、そこだけ見れば改悪に他なりません。

ただ、そもそもなぜそうする必要があるのか、いまいち納得できなかったのですね。

 

というのも、安倍政権を全面的に肯定するつもりはないものの、いわゆるジョブ型雇用の促進といったスローガンが示すように、安倍政権が基本的には拘束度の高い日本型正社員の雇用形態を問題視しており、ワークライフバランスに合う多様な働き方の幅を広げる方向を目指していると思っていたからです。

 

それがなぜ、派遣労働を追い詰めるようなことをするのか。

実際に議事録を読んで自分なりに整理してみました。

といっても時間がないので平成27年5月15日の厚生労働委員会の議事録だけになります。

 

「派遣は悪」なのか?

というわけで議事録を読んで、気になったことをまとめていきたいと思います。

 

で、まず公明党伊佐進一 氏の質疑より

「つまり、三年以上やれるような仕事なのであれば、これは派遣の仕事じゃないんだ、正社員の仕事なんだ、だから正社員の仕事を守る、つまり、本来正社員の仕儀とを派遣に代替させちゃいけないんだという意味での常用代替防止」

「派遣法のこの常用代替防止こそが、これまでの派遣法の主な目的だったと思います。派遣労働者保護ではなくて、いかに正社員を守るか。」

派遣法というものの性質について分かりやすく整理してくれます。

 

つまり派遣法は、「正社員を守るか・派遣労働者を守るか」という、容易に調和しがたい相反する目的を抱えている法なのであると。

 

で、従来の派遣法は期限の上限を定めることで、正社員の保護・常用代替防止に主眼が置かれていたと。

そして今回の改正は、派遣労働者の保護に力点を移していこうとするものであると。

 

さて、ここで押さえておかないといけないのは「派遣を増やすなんてひどい!」という価値観と、「派遣を減らすなんてひどい!」という価値観の争いです。

 

要するに「派遣は悪なのか?」ということです。

 

僕は現在看護学校でいくつか講義を受け持っているのですが、その中にはかなり多くの社会人の方が見られます。

そして話を聞くと、もともと正社員だったが激務で体を壊した方、離婚して子供を抱えた主婦の方など、切実なニーズを抱えた方がかなりいらっしゃいます。

中には、正社員を辞めて派遣で働いていた時に「自分はダメ人間だ」というマイナスのレッテルを受け入れ苦しんでいた方もいらっしゃいます。

 

そういう状況を見るにつけ、いわゆる日本型正社員の働き方ができない方が一程度いらっしゃること、そして派遣ないし非正規という働き方を直ちに悪とみなす考えを見直し、非正規という働き方を劣悪なものにしてしまう価値観や制度を変えていくことが必要だと強く感じています。

 

そうしたなかで、次のような質疑は大変に共感できました。

自民党・大岡敏孝の質疑より)

「今回の法改正では、正社員化ということを大きな目標に定めているように見えます。(・・・)この正社員化を目指すという考え方の背景に、従来の価値観、つまり、正社員が上で派遣が下、下の人ができるだけ上になるように目指していく、こういう価値観がどこかに残っているのではないかと考えます。」

 

  「(安倍総理が目指す多様な働き方は)恐らくそうではなくて、正社員が上で派遣が下という考え方そのものを改革して、もっと水平的にしていくと。正社員も あるし、契約社員もあるし、そして派遣もあるしパートもある、それぞれをそれぞれの個人あるいは家庭の状況やライフステージにあわせて選択をしてい く、・・・そういう生き方を目指すことこそが、総理の言う多様な働き方ではないかという風に考えております。」

同じ与党ですから意見のすり合わせなどをしているだろうし、スムーズなやり取りなのは当然としても、派遣・非正規を「正社員のなり損ない」とマイナスのレッテルを貼るのでなく、ワークライフバランス多様性に合う働き方として積極的に認めていく。

こういう理念が与党や内閣できちんと共有されているということ、そしてその理念を追求するために、同じ与党であってもおかしいところは追求していく、そういう姿勢が見られたことは個人的には心強いことだと感じました。

 

なぜ業務単位から個人単位に切り替えるのか?

もちろん、今回の改正案について与党側の見解に全く賛成というわけではありません。

例えば一律3年の期間制限は、明らかに「正社員が上で派遣が下という考え方そのものを改革して、もっと水平的にしていく」方向と相容れないように思います。

 

というか、そもそもなぜ専門26業務の限定をなくし、一律3年にするのか?

僕なりにまとめると次のようになるようです。

  • もともと、今年の10月1日に施行される「申し込みみなし制度」について、専門26業務の内実がわかりづらいから何とかする、ということが2011年の民主・自民・公明三党共同提出の附帯決議で決まっていた。
  • そもそも専門26業務の縛りは常用代替防止が目的だったし、そのなかでも多くの人が、派遣先との契約では無期でも、派遣会社との契約が「有期の反復」になっていて形骸化してしまっている。
  • なら、業務の縛りをなくし派遣元との契約で有期と無期を分けてしまおう。派遣元と無期契約の労働者は、派遣先との契約も制限しない。それ以外は一律で3年にする。

「26業務で期間制限がないと言われている人たちは、派遣全体の中で四割。ところが期間制限がないにもかかわらず、ちゃんと無期で雇われている人というのは17%しかいない。そのほかの方々というのは、期間制限がないと言われているにもかかわらず、有期で、しかも有機が反復でどんどん雇用されている、次は果たして契約更新されるのかどうか、常に不安の中で仕事をされているという風な状況です」(伊佐氏の発言)

ポイントは、派遣労働者全体が一律3年になるわけじゃなく、派遣元との契約が無期の労働者は、派遣先との契約でも制限がない、ということです。

「今回の派遣法も、個人単位で3年で切られるじゃないかというのが本来の主旨ではなくて、無期は除外されますから、無期転換すれば期間制限はないわけです。・・・今までの反復反復で契約が繰り返されるような一番極度な不安定な状況からまず無期転換してあげて、そのうえで正社員をめざしていく。私は、これが今回の一つの意味じゃないかなという風に理解をしております。」(伊佐氏の発言)

これはわかります。

派遣という働き方を望む人で、かつ長期的な雇用を求める人であれば、派遣会社が無期雇用で雇ってきちんとキャリアの育成とか派遣先の斡旋について責任をもってやっていくようにするべきだと。

 

しかし問題は、「派遣会社と無期契約できなかった人たち」で、つまり年齢なり能力なりの事情で労働市場で極めて弱い立場にあり、派遣会社からも無期雇用を断られる懸念のある人たちのことです。

不安定な「有期の反復」派遣でも、アルバイトになるよりはまし、という状態の人たちに対して、今回の改正はいわば「引導を渡す」ような形になっている気がします。

 

先ほど上で、「正社員化を目指すということは、派遣を下に見る価値観があるのではないか、それは多様な働き方の理念と矛盾するのではないか」という問題が提起されていましたが、まさにこういう部分で「ぬるい派遣を許すと甘えて固定化しちゃうから、ケツをひっぱたいてでも追い出さないと」みたいなシバキ主義のにおいを感じるんですよね。

 

この審議でも、厚生労働省側の役人が繰り返し

「(3年という)節目節目にちゃんと自分のキャリアの見つめ直しをしていただく」

ってことを言ってますが、「自分のキャリアを見つめなおす」ってのは、要するに、無期雇用の派遣になるか、あるいは正社員になるかってことでしょうが、そのどちらも難しい人はどうするんでしょうね?

「〇ねってことだよ言わせんな恥ずかしい」ってことなんですかね。

 

他にも、派遣元で無期になっても結局派遣先で切られちゃったら不安定じゃん、という質疑に対し、はっきりした答えが出ていません。

「派遣元事業主は、無期雇用の派遣労働者を派遣契約の終了のみをもって解雇してはならないということを指針に規定する、それからまた、派遣契約の終了のみをもってかいこしないようにすることを許可基準に記載することが適当であるという建議を頂戴しておるところでございます」(坂口政府参考人

今回の改正のキモのひとつに、派遣事業主への規制を強化するために、届け出制をやめて一律許可制にするということがあります。

その許可基準に規定を盛り込み、派遣先契約終了での解雇があれば派遣事業の許可を取り消す、という厳しい処分を下すのであれば実効性はあるかもしれません。

ぜひともはっきり決めて欲しいところです。

 

イメージ戦略が、民主党のイメージを悪化させている

以上のように、自民・公明が「多様な働き方」というビジョンに基づき、常用代替防止から派遣労働者保護へという方針を提示し、疑問点が残る部分はあるものの、それなりに納得のいく政策提案をしていることが感じられたのに対し、民主党の立場はいまいちわかりづらかったです。


例えば民主党西村智奈美議員の質疑ですが

「私は、労働者派遣法は、多様な働き方を働く人たちに提供するという極めて耳障りのよい言葉で飾り立てられてはおりますけれども、労働者の権利、そして女性の権利ということからすれば、やはりこれは大変大きな問題がある制度だという風に思っております。」

「(結婚したスキルのある女性が)自分の都合のいい時間帯を使って外に出て働くということは、まさに性別役割分業意識とぴったり鍵穴が合うように、マッチしたよ うに社会の中に広がってしまった。それがどんどん専門業務以外のところにも広がってきてしまって・・・」(民主党西村智奈美

この辺を読んだ時に思わずのけぞってしまいました。

どうも、派遣というのは性別分業という悪しき風習を補完する悪しき制度であり、それが拡大していくのはケシカラン、というレベルの認識みたいなんですね・・・。

 

 「この労働者派遣法の改正の中で、 常用代替の防止ということ、それから臨時的、一時的であるという原則、この労働者派遣の原則である二つの原則が、派遣業務の 制限が撤廃されたこと、そして派遣期間の制限がなくなってしまったこと、このことによって本当に大きく捻じ曲げられてしまったという風に思っています。」 (民主党・西村氏の発言)

今回の改正の争点は、派遣元と有期契約の派遣労働者について、業務を問わず一律3年の派遣期間が定められたことかと思っていたのですが、むしろ「派遣期間の制限がなくなってしまったこと」が問題という認識のようです。うーむ。

 

他にもドイツの事例を挙げ、派遣期間の制限をなくした結果、派遣労働者が2.4倍に増えたことを指摘しつつ糾弾していますが、やはり「派遣期間を3年に制限したこと」でなく「制限をなくすこと」が問題だとみているわけですね。

 

「派遣になることは可哀想なことなのだ」というわけでしょうか。

そういうつもりはなくても、現状「派遣はダメ人間」といったスティグマを押し付けられたなかで派遣という働き方をせざるをえない、そうした人たちのことをどう考えているのでしょうか。

 

確かに、正社員雇用の世界が男性に独占された結果、女性が非正規にはじき出されているという面はあります。

しかし、正社員の男性たちだって決して幸せだったわけではありません。家族から疎外され、孤独に苦しむ中高年の男性たちも多くいました。

他方で、男性が負担度の高い働き方を強いられる反面、企業が住宅や教育など様々な福祉機能を担ってきたという面もあるわけです。

そして社会全体の仕組みとして、そういう働き方に最適化されてしまっているという現状もあります。

 

おそらく民主党の目指すのは、均等待遇を前提としつつ、派遣を一時・臨時雇用に限定するというものだと思います。

しかしなぜ均等待遇が日本で難しいかと言えば、それは日本的な正社員が濱口氏がいう所のメンバーシップ型であり、単純に職務で賃金が決まっていないからです。職務給が一般的で、業種ごとの労働組合が成立するヨーロッパとは事情が異なるわけです。

 

そういう現状において、均等待遇とは何を意味するのか。

すべての人が、負担度の高い働き方を強いられるということなのか。

あるいは、今の日本型正社員の働き方を変えていく、欧米で一般的なジョブ型雇用へと全面的に切り替えていくということなのか。

それなら、では住宅・教育・退職金など今企業が負担している福祉機能はどうするのか。

 

そういう日本の現状の現実ということを踏まえずに、ただヨーロッパでは派遣は一時・臨時であるという理念だけを持ってきて、安倍政権を叩く題材にしているのではないか。

日本の現状を無視して、「ヨーロッパでは一時・臨時が当たり前なのに、一生ハケンなんてひどい!」と叫ぶことが、本当に日本の派遣労働者の人のためになるのか。

それは結局「正社員は上、派遣は下」という価値観を再生産し、今派遣で働くしかない人たちにスティグマを押し付ける結果になっているのではないか。

 

いずれにせよ民主党は、日本の現在おかれた困難を、性別分業・新自由主義・あこぎな経営者のせい、といった形で「善と悪」に単純化し、「正義」をかざして悪を非難する、そういうレベルで認識が止まっているように見えます。

そして悪のイメージを安倍政権に付与しようと躍起になっている。

 

しかしそういうイメージ戦略が、かえって民主党のイメージを悪化させてしまっているように思います。

 

例えば今回の審議では、民主党のほとんどの攻撃は「10.1ペーパー問題」に集中していました。

詳しくは省きますが、確かにこれについて厚生労働省側にも落ち度があるのは間違いないと思います。そして、それなりに大事な問題だとは思います。

 

でも「ああ、またか」とげんなりするんですね。

また国民置いてけぼりで政治ごっこに夢中になってるのね、と。

 

繰り返し言いますが、「正しい正義」を掲げて「悪い奴ら」を倒せばいいという状況ではもうないんです。

戦うべきは、歪みを孕んだ形で最適化されてしまった日本社会の構造であり、自民だの安倍政権だのといったちっぽけなものではない。

 

ただ「反自民・反安倍」を叫ぶのではなく、まず民主党自身として今の日本社会の問題が何に起因しているのかしっかり分析し、そのうえで具体的なビジョンなり代案を自民のプランにぶつけ、共通するところは認めあって協力して改善に取り組む、また違う部分はクリアに示し国民に選択を求める、そういう姿勢に切り替えたほうがいいのではないかと思います。